「人生会議」とは厚生労働省が推進しているアドバンスケアプログラム(ACP)をより一般の方に分かりやすく、なじみやすいものにするために採用された言葉です。
ACPとは、終末期を迎える患者本人が自身の意思決定が困難となる前にあらかじめ家族や医療者とどのような最後を迎えたいか、どのようなケアを望むかを話し合っておくことです。
今回、厚労省は吉本興業のお笑いタレントの 小籔千豊さんを起用して「人生会議」についてのポスターを作成し、啓蒙活動を行いました。
ポスターの内容は以下
まてまてまて 俺の人生ここで終わり?
大事なこと何にも伝えてなかったわ
それとおとん、俺が意識ないと思って隣のベッドの人にずっと喋りかけてたけど全然笑ってないやん
声は聞こえてるねん。
はっず!
病院でおとんのすべった話聞くなら家で嫁と子どもとゆっくりしときたかったわ
ほんまええ加減にしいや
あーあ、もっと早く言うといたら良かった!
こうなる前に、みんな
「人生会議」しとこ
これに対してがん患者団体やご遺族が猛抗議をしました。
「医療の啓発をするのに当事者や患者の心境を配慮しないなんてことがあってはならないと強い憤りを感じています」
「話し合いの大切さを強調するために、懲罰的な言葉や脅迫的な手法を使えば、傷つく遺族がいるでしょう」
といった内容の抗議にがん患者のご遺族からも賛同する意見が次々とみられ、結局ポスターは配布中止となりました。
ご遺族からみれば、家族の死という受け入れがたい現実を目の前にしているときに、お笑い芸人が患者になって酸素チューブをつけて関西弁で笑いや冗談を取り込んでいるポスターをみて憤りを感じるのでしょう。
人生会議のポスターの失敗は何だったのか?
今回のポスターは結局配布中止となってしまいましたが、一体何が悪かったのでしょうか?
いくつか原因となりそうな要因を調べてみました。
吉本興業に一括委託しており、内容が配慮に欠けていた
ポスターの内容や文言、画像などを吉本興業に一括委託していましたが、もちろんその一字一句すべて厚労省で確認し了承を得た上での公表でした。
ただ、肝心の医療従事者や患者本人、そのご家族への聞き込みが足りていなかったのかもしれません。
それが「配慮に欠けている!」といった抗議文を受け取ってしまう結果へと繋がってしまったのかもしれません。
なにより、受け入れがたい家族の死を取り扱っているのに、「そうだ、京都いこう」みたいなノリで「みんな、人生会議しとこ」と言う軽率な態度が不愉快と感じるのかもしれません。
死を連想させるポスターになってしまっている
抗議文を送ったがん患者団体からは、ポスターには違和感を覚えるとの発言もありました。
というのは、患者は今を必死に生きていこうとしているのにポスターの内容は死を連想させ、死ぬことに焦点をあてている、とのことです。
考えてみれば、入院している患者は、治療が終わったらまた家族に会って、一緒に食事をしたり他愛もない会話ができるだろう、と希望を持って治療に励んでいることでしょう。
そんな時に「どのような最後を迎えたいかご家族と話し合ってください」
なんて言える人はいないのではないでしょうか?
そのためにポスターで啓蒙するのでしょうが、患者やご家族にとってはポスターをみてそんな風に言われているような感覚になってしまうこともあるでしょう。
人生会議のPRポスターは本当に失敗だったのか?
結果的には抗議を受けて配布中止となってしまった人生会議のポスターですが、今回の炎上騒動によって多くの人に知れ渡る結果となりました。
それは啓蒙活動という意味では大成功と言えるのではないでしょうか?
上の画像は厚労省の公式ページですが、このようなポスターがあったとして一体何人の目にとまり、何人の人が「へぇ人生会議しとこうかな」と思うでしょうか。
もちろん、誰も傷つけずに啓蒙活動することが理想ですが、一般の方にとってなじみのない言葉を普及させるには衝撃的な刺激や危機感、有名人の起用など様々な工夫が必要になってきます。
事実、私も今回の件で初めてこの言葉を知りました。そして「人生会議」とは何か?について考えるきっかけにもなりました。
また、今回の人生会議ポスターを見て不快に感じることはありませんでした。
一般人にとっては配慮に欠けた内容とはなっていない
そもそも、今回のポスターは今現在入院している人を対象にしているわけではなく、一般の方々に周知していただくことが目的だと思います。
我々一般人は入院して口がきけなくなることなんてまったく想像していません。
しかし、いつ何時何が起こるかわからないものです。
ですから万が一の時のために、事前に家族と自分の死に方について話し合っておくことが必要になってきます。
今回のポスターはお笑いタレントの小籔千豊さんを起用していることからも多くの人に知ってもらいたいという思いが読み取れます。
また、一般の人にとってポスターは「考えるきっかけ」になりさえすれば良いので、そういう意味ではポスターは「人生会議」という言葉を広めて考えるきっかけを作れたので、厚労省の目論見は成功としたと言えます。
そして、多くの一般人からは特に不愉快ではない、という意見が多いのも事実です。
つまり、ターゲットに対して的確なポスターが作成されたとも言えます。
「死を連想させる」むしろ連想してほしい
人生会議は、すべての人に訪れる死に対して個人の決定権を最後まで行使するために必要な準備です。
あなたの命のことはあなたが責任を持って最後まで決めなければいけません。
今回の人生会議ポスターは「死ぬことに焦点をあてている!」と反発を得ていますが、死ぬことを考えることはどうやって生きるのかを考えるのに必要なことです。
以下はツイッターよりみた人生会議の在り方です
#人生会議 勝手にポスターシリーズ
— 紅谷 浩之 Beniya Hiroyuki (@orange_be) November 28, 2019
本人の言葉がなくても、人生会議ができる。
その人のことを想いながら、
想う自分を主語にせず、その人が主語になるように気をつけながら、
丁寧に選んでいく。
すぐに決めなくていい、迷おう。わかんないもの。
ぐるぐる回ったり、2歩戻ったりしながら。 pic.twitter.com/X4rVXh5kch
やっぱ人生会議はこうだろ#人生会議ポスター #勝手に人生会議ポスター pic.twitter.com/Et3nXfBj6d
— 下河原忠道 (@tadamichi_shimo) November 29, 2019
【拡散希望】
— 内科医 橋本将吉(#ドクターハッシー) (@karada_plan) November 27, 2019
厚労省ポスター。
悔しくてハッシーが作り直してみました。
突然訪れるその時までに、
次の三つを話し合っておく事が大事です。
①生きていて楽しい事
②健康や病気
③いざという時にどういう医療を受けたいか
作った人も悪気はないと思うから。
どうか誰も傷つかないで。#人生会議 pic.twitter.com/oibSfoDMtR
みんな、人生会議しとこ
自分の命のことだけではありません。
あなたの大切なお父さん、お母さん、夫、妻、息子、娘、兄弟についても深く考える必要があります。
私も医療関係者ですので声を大にして言わせていただきたいのですが、その時は突然きます。
想像できますか?
仮の話ですが、ついさっきまでぴんぴんしていたお母さんが、突然病院に運ばれ、医者や看護師が取り囲み、一時間後にはあなたは医者と顔を合わせて「意識が戻るとは断言できませんが、今すぐ呼吸器をつけなければ命の危険はあります。お母さまの延命治療を希望しますか」と母の命の決断を医者があなたに聞いてくるのです。他の家族がかけつけてくるのを待っている余裕はなさそうです。
あなたはお母さんが生前「延命治療なんていやね、死ぬときはぽっくり行きたいわ」と言っているのを聞いたことがあるような気がします。しかし、あまり深く話し合いませんでした。
そして、あなたは生きる希望にかけて延命治療を選択するのではないでしょうか?
そして1ヶ月、意識が戻らない状態が続いたときに、あなたと家族はどんな選択をすべきか。
3カ月意識が戻らなかったとき、あなたと家族はどんな選択をすべきか。
意識もなく、肺炎を繰り返し、四肢は硬直し、苦しそうに呼吸をしていても、「治療を中止してください」という勇気がありますか?
医者に家族の命の選択をゆだねるご家族もいます。しかし、医者が決めることはできません。
そうならないためにも、人生会議は必要なことなのです。
啓蒙の仕方がどうあれ、多くの人に人生会議を意識させることに成功しているポスターを私は評価します。
厚労省:ゼロから始める人生会議を私も多くの人に知ってもらいたいです。(リンクは公式ページへ飛びます)
以上、ナベトモでした。
したらな!
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